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インターネッツでフィリピンに渡ったキハ52が営業を始めたという情報を入手したので、mayaタスとYAKUMOと
一緒に飛んで行ってきました。高度な保守技術に頼ることを前提に設計されている日本用の気動車は、
サハリン、タイ、ミャンマーと使い捨てをやられているので、とにかく、「善は急げ!」なのです。
結果は・・・、逆に時期尚早すぎた(^^;;というか、韓国製気動車が奇跡的(?)な絶好調を見せていたので
いちばんの目的だった「キハ52に乗ること」は果たせませんでした。(汗)
しかしながら、末期癌状態から本気で起死回生を図りはじめたフィリピン国鉄の珍妙な姿は十二分に観察
することが出来ましたので、実見録としてご報告いたします。
・1/13(金)
139レ:DMR-04+ITR-02+DMR-03(乗)
140レ:DMR-03+ITR-02+DMR-04
141レ:DMR-02+ITR-01+DMR-01
142レ:DMR-01+ITR-01+DMR-02(乗)
・1/14(土)
101レ:DMR-06+ITR-03+DMR-12(乗)
上りBICOL EXPRESS:機関車+CAR-2(シュプール大山用オハ12)+1482(オハネ1482)+1432(スハネフ1432)
202レ:919+7A-2006(スハフ12116)+7A-2029(オハ12374)(乗)+7A-2015(オハ12233)+7A-2007(スハフ12111)
125レ:DMR-04+ITR-02(乗)+DMR-03
126レ:DMR-03+ITR-02+DMR-04
127レ:DMR-06+ITR-03+DMR-12
129レ:DMR-05+ITR-05+DMR-09
130レ:DMR-09+ITR-05+DMR-05
132レ:DMR-01+ITR-01(乗)+DMR-02
133レ:DMR-04+ITR-02+DMR-03
134レ:DMR-03+ITR-02+DMR-04
135レ:DMR-08+ITR-04+DMR-07
136レ:DMR-07+ITR-04+DMR-08(乗)
141レ:DMR-02+ITR-01+DMR-01
138レ:DMR-12+ITR-03+DMR-06(乗)
下りBICOL EXPRESS:機関車+1432(スハネフ1432)+1482(オハネ1482)+CAR-2(シュプール大山用オハ12)
201レ:919+7A-2007(スハフ12111)(乗)+7A-2015(オハ12233)+7A-2029(オハ12374)+7A-2006(スハフ12116)
146レ:DMR-07+ITR-04(乗)+DMR-08
・1/15(日)
101レ:DMR-08+ITR-04+DMR-07(乗)
202レ:919+7A-2006(スハフ12116)+7A-2029(オハ12374)+7A-2015(オハ12233)(乗)+7A-2007(スハフ12111)
118レ:DMR-09+ITR-05+DMR-05
123レ:DMR-04+ITR-02+DMR-03
120レ:DMR-12+ITR-03+DMR-06
フィリピン国鉄は現在南方線のTutuban(マニラ)〜Ligao間445.4kmで営業運転されているようですが、今回は
定期気動車が運転されているTutuban〜Alabang間28.1km(メトロコミューター区間)に絞って報告いたします。
1 路線
路線図
Tutuban(マニラ)〜Sucat間は複線。それ以外は単線。
2008年から行われた整備事業により、線路内住居の撤去、軌道の体質改善、新型気動車導入によるスピード
アップが行なわれ、朽ちかけた12系客車がスラム内をゼロクリアランスでノソノソ進んでいた光景は消え去り、
面目を一新している。特にTutuban〜Alabang間はメトロコミューター区間と称され、気動車によるフリークエント
サービスが行われている。
※路線図中のマニラから北へ伸びる北方線は現在営業運転に向けた復旧工事中。
※車両基地はTutuban駅に隣接。車両工場は北方線を進んだところのCaloocanにある。
↑フィリピン国鉄の名物だった不法住居によるゼロクリアランス地帯もこんなにさっぱり!
中央のドブでは兄ちゃんがウンコをしていたが、カメラを見つけるとさすがに気まずそうにしていた。
123レ DMR-04+ITR-02+DMR-03 Tutuban-Blumentritt 12/1/15
↑大増発と高速化が行われたものの、いまだに線路敷地内では市場が開設され、駅間ではトロッコ屋が勝手に
営業している。鉄道の急激な変化に住民たちが追いつけず、このように混乱が起こっている一面もある。
134レ DMR-03+ITR-02+DMR-04 Sucat-Bicutan 12/1/14
2 運行ダイヤ
気動車列車(メトロコミューター)は朝5時台から夜19時代まで運転されている。
コミューターは全列車各駅停車で、ラッシュ時30分ヘッド、日中1時間ヘッドのパターンダイヤで構成されている。
職員たちは定時運行に努めており、ダイヤの乱れは-1分から多くて+14分だった。
最高速度はBicutan〜Sucat間での80km/h程度。(運転台を覗けないため体感による。)
他、ダイヤには12系客車を使用した輸送力列車の「COMMEX」と14系・12系客車を使用した“BICOL EXPRESS”
(Tutuban〜Naga間377.6kmを走る夜行列車)が各一往復スジ引かれている。12系客車を使用した「COMMEX」は、
コミューターを補完するカタチでTutuban-(201レ)-Binan(ヨ)-(202レ)-Tutubanの一日一往復運行されている。
12系客車が夜間と早朝に追いやられた運用になっているのは非冷房と鈍足さに配慮したためと思われる。
【時刻表】
下り(その1) 下り(その2)
上り(その1) 上り(その2)
※時刻表には休日運休の記載があるが1月15日(日)の午前は休日運休の列車も運転されていた。
3 運賃
Tutuban〜Alabang間の運賃は20ペソ。冷房の無い12系「COMMEX」(201レ,202レ)は2割引運賃を適用。
コミューター区間の運賃表
※1ペソは1.8円くらい
4 車両(気動車)
4-1【DMU】
↑フィリピン国鉄主力のDMU 141レ DMR-02+ITR-01+DMR-01 Pandacan-Paco 12/1/14
韓国Hyundai Rotem製の21m級ディーゼルカー。DMR(キハ)+ITR(キサハ)+DMR(キハ)の3連で組成
されている。駆動機関はカミンズ製。鋼体はステンレス製。台車はボルスタレスのように見受けられる。
側扉は片側2箇所の両開きで自動ドア。冷房車で、ITRにはサービス電源用機関を床下に設置。
車内はオールロングシート(車椅子スペース有り)で座席はFRP製。車端には貫通扉が設けられている。
扉部を除く全ての窓ガラスとライトケースは投石対策の金網で守られている。扉部のガラスは割れた
ところから鉄板に交換されている。運転台部分の100x200程度は最初金網がなかったが、最近になって
目の粗い金網が取り付けられている。
全体的に簡素な造りでメンテナンスフリーに配慮されているようである。
乗り心地はエアサスがパンクしたまま使われている12系「COMMEX」と比較すると雲泥の差。
乗務員室にはラジオの受信機が設置されているようで、列車内では車掌の気まぐれで?FM放送が
流されていることがあった。
3連6本が揃えられていたが、事故や不調のため現在稼動しているのは3連5本である。
国鉄職員には「デーエムユー」と言うと通じる。
・1月15日時点での編成
←Alabang
DMR-02+ITR-01+DMR-01
DMR-04+ITR-02+DMR-03
DMR-06+ITR-03+DMR-12
DMR-08+ITR-04+DMR-07
DMR-05+ITR-05+DMR-09
※DMR-10は機関不調のため運用離脱中
※DMR-11は接触事故後前頭部破損のままTutubanの検修庫に放置中
※ITR-06は動力車が無く持て余し中
※DMR-05とDMR-12の方転は南方線と北方線の分岐部にあるデルタ線で行われたと推測
4-2【KIHA52】
元JR東日本のキハ52形で、新津運輸区に所属していた102,120,121,122,123,127,137の7台が到着している。
塗色はJR東日本時代そのままで102,120,121,123は新潟色、122,127,137は国鉄標準色。
フィリピン国鉄での主な整備内容は次の通り
・側引き戸の窓ガラスを鉄板に交換
・全ての窓ガラスと前照灯部に金網を取り付け
・腰板中央と貫通扉にフィリピン国鉄のエンブレムを貼り付け
※室内は全く手が付けられていない様子
1月15日時点で122,123,127,137の4台が整備を終えており、これら4両はTutubanの検修庫横で待機中。
102,120,121の3台は側引き戸の窓ガラスを鉄板に交換しただけの状態でTutubanのホームに留置中。
国鉄職員には「キハフィフティーツー」と言うと通じる。
↑Tutubanで4両編成を組んで待機する←Alabang KIHA52137+KIHA52127+KIHA52122+KIHA52123 12/1/15
↑Tutubanのホームに留置されている←Alabang KIHA52120+KIHA52102+KIHA52121。新津での留置時に
貫通扉ガラスに貼り付けられた「締切中」の紙がそのまま残っている。 12/1/14
↑側引き戸の窓ガラスは投石対策のため鉄板に交換されている。 KIHA52102 Tutuban 12/1/14
4-3【KIHA29,59(KOGANE)】
元JR東日本のキハ29,59形「こがね」でキハ29506,キハ59510,511の3台が到着している。
Tutubanの検修庫に編成で突っ込まれており、詳細を確認することはできなかったが、前面窓ガラスに金網が
取り付けられているのは確認できた。フィリピン国鉄での整備内容はキハ52に準じるものと推測される。
国鉄職員には「コガ〜ネィ」と言うと通じる。
Edsa駅の切符売り氏が私たちが日本人だとわかるとニッコニコで「コガ〜ネィ イズ ベリーナイストレイン!!」と
はしゃぎかけてきた。ふつーの日本人にとってはそんなの言われても意味不明なのだが、彼らにとっては
もはや日本=キハ59「こがね」であり、それほどまでにジョイフルトレインのインパクトが強いことを伺い知れた。
また、到着して間もないキハ29,59の存在が末端の駅員にまでちゃんと伝わっていることに感心させられた。
↑Tutubanの検修庫で待機するKIHA29,59「KOGANE」。前面ガラスに金網が取り付けられているのが確認できる。
12/1/14
5 運用(気動車)
5-1【DMU】
マニラ近郊のコミューターの全列車を担当しており、5運用がある。
現状、稼動編成は所要カツカツの5本なので、トラブル時や検査時にはKIHA52による代走が行われる。
DMUの運用表
5-2【KIHA52】
DMUの予備として、また“BICOL EXPRESS”の多客期増発用として使用されている。
(ソースはTutuban駅での撮影時に案内してくれた駅員氏)
今回の訪問時はDMUが5本とも快調に動いており、乗車は叶わなかった。
5-3【KIHA29,59(KOGANE)】
11月に試運転を行ったきり運転されていない様子。
6 運転保安
信号装置無し。通票らしきもの見当たらず。転轍は番人による手動。
Sucatから先は単線になるにもかかわらず、これで30分ヘッド運転が成立しているのはある意味優秀と言える。
踏切は警報機(手動)が機能しており、踏切番による交通整理が行なわれるものの、列車が自動車の波を
掻き分ける感じ。(踏切内に居座って客待ちをするジプニーがいたりする。)
道路交通では馬車が追い越し車線を走り、路線バスが信号無視を行い、逆走もしばしばなので、交通ルール
や交通の安全対策に関してはかなり大らかなお国柄と言える。
各駅での入場の際には警備員による荷物検査があり、駅と列車内では西部警察のような銃を装備した
鉄道警察官が多数睨みをきかせている。
Sucat〜Bicutanの単線から複線への切り替わり地点を行く126レ。 日傘を持った男性がポイント番で手動で
転轍する。 DMR-03+ITR-02+DMR-04 12/1/14
7 マニア活動について
駅構内での撮影は原則禁止。ホームに入るときに「写真はダメ!」と念を押される。
どうしても撮影したい場合は国鉄の許可が必要。
LRTの駅で現地のおぼっちゃまがカバンからカメラを取り出して何かを撮影しようとしていたが、すかさず
鉄道警察官に注意されていた。
(外国人観光客の観光的なスナップ撮影は黙認されているようである。)
#マニラ港で「SUPER FERRY12」(旧「ニューみやこ」)を撮影したのですがこれも相当ヤバったです。
#恐そうな港湾警察官がパトカーから降りてきたので、ただ逃げました。(^^;;
●今回のTutubanでの撮影許可取得の流れ
駅の案内所で「撮影許可をもらうにはどうしたらいい?」と尋ねる。
↓
本社のTrain Admini(運転本部長?)室へ案内され、秘書を紹介される。
↓
「Train Adminiは今日休み(日曜日)で私は許可を下すことが出来ないから、電話して直接交渉してください」と
電話番号のメモを渡される。
↓
Train Adminiに電話で交渉。(めでたしめでたし)
↓
駅員を一人つけてくれて構内撮影。
#こればっかりはmayaタスの度胸に恐れいりました。というか、感謝感謝。
南方線の整備が日本のODAで行われ、JRが中古車を大量に譲渡しているためか、鉄道関係者は日本に
対して自然と感謝の意を持っているようで、基本的に日本人は歓迎してくれる。
しかしながら撮影許可を得るには英語での交渉が必要で面倒なため、ちょっとコワいが駅間で走行を撮影
するほうが気楽。
気動車列車の先頭車1両はLRTに倣ってか暗黙の女性専用車両になっており、男性がうっかり居ると
鉄道警察官に注意される。男性が乗車記録を行うには先頭車を外す制約があり、一工夫必要である。
夜間走行の12系客車(201レ,202レ)への乗車はマニラの真髄を味わうのにもってこいなのでお勧めする。
(治安が悪いので常に神経を尖らせて警戒するように!)
好きな女の子を連れて行けば、萎縮してギュッと引っ付いてくれるに違いない。
#嗚呼、りほりほにギュッてされたいーー!!!(´Д`;;)
14日の201レには、mayaタスが「マニラ湾へ夕日を見に行きたい」、YAKUMOが「もう無理!」というので
一人で乗ったのだが、なかなか良い度胸試しになった。
#これに乗ったあと、ホテルに帰ってプールで泳いだのが緊張が解けたのもあってむっちゃ気持ちよかった!
↑凄まじい状態で運用されている「COMMEX」の12系客車。蛍光灯は各車2本程度しか生きていない。
202レ 7A-2029(オハ12374) 12/1/14
↑これでも現役! 腐っても国鉄型で、台枠はしっかりしてるんでしょうなぁ。
7A-2015(オハ12233) Tutuban 12/1/14
↑日本の中古バスを探すのもフィリピンでの楽しみの一つ。 ブルドッグと西工58MC Sucat 12/1/14
↑「SUPER FERRY12」 もと阪九フェリーの「ニューみやこ」 マニラ港 12/1/15
8 風土
8-1【乗客】
乗客の格好はTシャツ・ジーパン・サンダルがデフォルトで、コミューターが庶民の足として機能している
のがわかる。(スカートを着用した女性はホテルの従業員と制服の小学生と空港の窓口とTrain Adminiの
秘書だけしか見なかった。)
乗客らは車内で本や新聞を読んだり仕事をすることは無く、寝るかボーっとするかヘッドホンステレオで
音楽を楽しんでいる。携帯電話が一般庶民にまで普及しているにもかかわらず、携帯電話をいじって暇を
潰す人も見当たらなかった。また、乗車時間が短いためもあってか飲み食いする人も見当たらなかった。
座席には定員以上の人数が詰め合って座り、子連れの母親と老人には席を譲るのが当然となっている。
ちなみに12系客車のボックスシートは6人がけと認識されている。
ボックス席で足を投げ出すときはシートが崩れかけの12系客車であってもみなさん履物を脱いでいたの
には感心させられた。沿線はゴミだらけであるが、車内にゴミが散らかっていないのは特筆に値する。
↑12系客車のボックスシートは6人がけ。 202レ 7A-2029 12/1/14
8-2【列車妨害について】
子供たちによる列車への投石に何度も遭遇した。また、子供がレール上に石を並べているのも目撃した。
これらは彼らの日常的な遊びのようである。
↑置石をする少年。このあと気付いた成人男性が石を蹴りのけていた。 Alabang 12/1/13
↑Alabangの駅裏に住むいわゆるふつーの子たち。
子供たちは日本のようなしょーもない警戒心は無く、とても明るく人懐っこい。
「このコとこのコが私の兄弟姉妹! 撮ってー!」と猛アピールしながら寄ってきて、さよならするときには
父親と思しき男性に「ベリーサンキュー」と見送られた。
9 将来
数年前までは一日数往復の客車列車が肩を潜めて運転されているに過ぎなかったマニラ近郊区間であるが、
機動力の高い気動車投入によるフリークエントサービスは想像以上の潜在需要を引き出したようで、
始発列車から満員の様相を呈している。特にEspana〜Bicutan間の混雑が酷く、ラッシュ時には平日休日に
かかわらず積み残しが常態化している。しかし、これ以上の増発は、現状では地上設備の貧弱さと車両の
不足からして不可能であり、更に鉄道の価値を高めるには保安設備の改良と車両の増備が必須となるで
あろう。特に車両の不足は、予定されている北方線の復活開業と南方線の複線区間延伸、更にAlabang以南
へのてこ入れが行われると、近い将来窮地に瀕することは間違いなく、早急な対策が必要となる。
JR東日本から譲渡された203系電車40両を、5連8本の客車として使用するプランが進行中とのことだが、
それだけで足りるのか、はたまた、気動車の使い勝手のよさに慣れてしまった鉄道が客車列車に戻れるのか
はなはだ疑問である。JR北海道のキハ141,142にキサハ144を挟めば、DMUと同じM+T+M編成が構成できて
ちょうどいいのではないかと軽く妄想・・・
↑Bicutanで135レからドッと降りてきた買い物帰りの乗客たち。フリークエントサービスは成功しすぎて輸送は
既に飽和状態にある。 12/1/14
↑Alabang駅付近は数年前の雰囲気が残っている。ここも複線化の予定があり、近い将来状況が一変すると
思われる。 140レ DMR-03+ITR-02+DMR-04 12/1/13
10 結び
何のために敷設されているのかもよくわからず、相次ぐ天災により路線が分断され、そのまま放棄される
のではないかと思われていた鉄道が、ようやく鉄道のゆえんたる高速大量輸送機関として機能し始め、
理解されだしたというのは、日本でも見習える点がありそうでひじょうに興味深い。
フィリピン国鉄のヤル気は本気なので、これからどのように鉄道復権を進めていくのか、キハ52と「こがね」は
どのように活躍するのか、びっくりな事案がどんどん巻き起こりそうで目が離せない。
#帰りの飛行機はオーバーブッキングでビジネスクラス! セレブ気分を味わえました。(^^)
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